期限の利益の喪失
期限の利益とは,期限が到来するまでは債務の履行を請求されないという債務者の利益のことをいいます。例えば,売買の際に「4月10日までに売買代金を支払う」という合意をした場合,買主(売買代金を支払う債務者)は4月9日までは売買代金を支払う必要がないことになります。このように債務者にとっては履行を一定期間猶予されることが利益になるので,一般的には,期限の利益は債務者の利益のために定められたと推定されます(民法136条1項)。
そして,以下のような場合には債務者は期限の利益を主張できなくなり,債権者は期限が到来する前だとしても直ちに債務を履行するようにと請求できるようになります(民法137条)。このことを期限の利益の喪失と言います。
①債務者が破産手続き開始の決定を受けたとき
②債務者が担保を滅失,損傷,または減少させたとき
③債務者が担保を供する義務を負う場合に,これを供しないとき
また,民法137条に規定する場合以外にも,債務者の信用を損なうような事由が発生した場合には,できるだけ早い債権回収を図るために債務者の期限の利益を失わせる条項を特約として契約書に定めておくことがあります。例えば,債務者が破産・民事再生などの申立をしたとか,支払いを停止した,手形や小切手の不渡りを出した,強制執行・仮差押・仮処分を受けたなどの場合には債務者は期限の利益を失う旨の条項を定めます。これを期限の利益喪失条項と言います。
金銭消費貸借契約において,分割の返済期限までに返済がされなかった場合には,債務者は期限の利益を失い,債務の残額を一括で支払わなければならないという定めがよく行われます。